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「まあでも、大風が去ってしばらくすると、川岸にはいろいろなものが流れ着くからねえ。中には物騒なものも少なくないしね」  新吾はそう言うと酒をグイッと飲みほした。 「昔から、大川の端に仏さんが流れ着くのは大雨や大風の後と相場が決まってますからなあ」  秀作が頷きながら茶碗に口を近づけながら言うと、それまで黙って包丁を握っていた店の主人が口を挟んできた。 「その仏さんというのんは、どこから流れてくるんでっしゃろ」  新吾と秀作が、えっと小声で呟き思わず顔を見合わせた。 「そりゃ川上に決まってるだろ大将」  新吾が言うと、主人は首を傾げた。 「この東京に人がぎょうさん住んではるのは知ってますが、大川の上手にもそないに人が住んではるんですか?」 「え……」  今度は新吾が首を傾げた。 「ですからお客はん、流れ着く物騒なものは仏さんで、少なくない数が流れ着く言うてはりましたでひょ」  どうやらこの店の大将は上方でも大阪ではなく京の辺りの出身らしかったが、新吾にはその訛りを判別することが出来なかった。 「はは、これは大将の勝ちだ。高村の旦那、確かに主人の言う通りあの仏さんたち何処から来るのか謎がございりますよ」  秀作が赤い頬に笑みを浮かべそう言った。 「いやあ、大川は秩父の峰から流れて来るんだ、その途中に大きな町は無くても人は少なくない数住んでいるだろう。その辺りの住人が川にはまって流されてくる、そういうことだろう?」  新吾が言ったが、秀作は首を傾げる。 「ですがね、まず大水の度に必ず仏さんは流れてきますでしょ、それも多いときは何体も。このお江戸、じゃなかった東京ならともかく、川の上手にそんなに人って住んでいて、そうそう流されてしまうものなんでしょうかね?」
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