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 絵の中の鴉は、その首を藤田の声が聞こえた方に向けた。鴉の目に険が浮かんでいる。眼の見た目は変わらぬが、それが鋭くなっているのが暁斎の筆致による絵の中でさえ判るほどにきつくなっている。  鴉が言った。 「この男はまだ誰の手にも渡せない。間違っても我らが手にかける事など有り得ない」  ここで急に暁斎が話に割って入った。 「御霊が来るというんじゃ、いろいろまずい。早急に話をまとめてそりゃあ避けたいのが本音だ。なあ、おめえさんの言う通り、藤田の旦那が手にしている刀は鬼刻残心、銘はねえが正真正銘の妖刀だ。こいつは、総ての縁をぶった切れる珍しい刀だ。最初にこれにお目にかかった時、おいらはびっくりした。刀に鬼がしがみついていたんだからな」  新吾は思わず藤田の手元に目をやった。藤田の右手は刀の柄を握ったままだが、新吾の目にその刀は特に変わっては見えなかった。 「話の次第じゃあ、俺はおめえさん達と新吾の繋がりを断ち切るつもりだ。だから正直に答えて欲しい、こいつは何をするために生かされている。こいつを冥土に行かせなかったのは、何故だ」  どうした事か、暁斎の言葉を聞いた瞬間、新吾は激しい頭痛を覚えた。 「生かされている?師匠何でしょうか。その言葉は……」
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