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暁斎は問いに答えず、鴉にきつい声で告げた。
「おいらにお前は消せねえ。その力は持ち合わせていない。だが、ずっとここに閉じ込めておく事はできる。どうだ、正直に言ってくれ、そうしたら新吾が言ったようにおめえはここから出してやる」
少しの間、鴉は黙った。何かを考えている様子だ。
やがて鴉が嘴を開いた。
「絵描きよ、話を聞いてこの男の命が霊切れることになっても、お前は構わぬというなら語る」
藤田が反射的に暁斎の肩を掴んだ。
「それはいかん、やめようではないか」
だが暁斎は首を横に振った。
「死なせねえよ、俺が。一度死んだ人間を二度死なせるなんて誰が許す」
新吾の中で、何かが頭を擡げた。
前にも聞いた覚えがある。死んだ男……。それは、自分の事なのか?
暁斎がいきなり新吾の腕をぎゅっと掴んだ。
「いいか、おめえは何も考えるな。ここは全部任せろ」
新吾は黙って頷いた。
「さあ、鴉さんよこっちは腹をくくった、そっちも肝据えて話をしてくれねえか」
暁斎が八咫鴉に言った。
鴉は、コクっと一回頷き嘴を開いた。
「我が主は、いまだ天皇家への復讐を諦めておらんのだ。それが成されぬのは、祭祀によってすべての邪気が払われてしまうからで、この七百年余り崇徳院様は何らかの形で宮家に打撃を加えるべき方法を考えていた。ある日、院は徳川の御世が終わり、再び天皇家が復権する事を予見した。そして、これまで院の放つ邪気を跳ね除けていた京の地から御所が変わることも予見した」
暁斎だけが、うっと小さな声を漏らした。何かに気付いたらしい。
「しかし、この江戸にも大きな結界が張られていた。誤算だった。しかし、これを壊すために必要な素材を我らが見つけた」
「それが高村新吾だったわけだな。俺にも見えない何をこの男に見た?」
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