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次の瞬間、暁斎は新吾を組み伏せ、その首すじに筆で何かを描き始めた。
「し、師匠まさかお経書いてるんじゃ……」
新吾が言うと、暁斎が吐き捨てるように言った。
「どこかで聞いたような怪談じゃねえや馬鹿野郎、俺が描いているのは冥府におめえを渡さないための誓文だ」
「誓文?」
新吾が怪訝そうに言った直後、いきなり建物の外で大きな音が響いた。
「落雷か!」
藤田が叫ぶ。
そこにあの鴉の声が虚空から響いた。
「おいでになられた、あの方が。この龍の申し子を取り戻すために」
暁斎が、ちっと舌打ちすると藤田に叫んだ。
「あんた、外の奴の相手を頼む。おいら、まだ手が離せねえ」
藤田が驚いて暁斎を振り向く。
「外の奴って、つまり、その……」
「崇徳院様に決まってるだろ! 元は御所を守る人間だったんだろ、なんとかしろい!」
滅茶苦茶な物言いなのは暁斎も判っていた。しかし、現状外に降臨した怨霊の相手をできるのは藤田しかいない。荒崎はとっくの昔に腰を抜かしてしまっていた。
ええい、と腹をくくった藤田は抜身をぶら下げたまま、外庭に面した障子をガラッと開けた。
怨霊はそこに居た。だが、その姿はあまりに意表を突いたものであった。
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