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「仲介人さんのたっての願いなのだ。是が非でも高村新吾を寄越して欲しいと。ようやく戦いを見てきた人間にたどり着いたのだから、ここは指示に従うしかない。私からは頑張って来いとしか言えん」
社主はそう言って新吾の肩をポンと叩いた。
「誰ですか、その仲介人というのは」
新吾が訊くと、社主が片手をあげた。
「お前には教えるなと釘を刺されている」
「はあ、なんででしょう」
新吾は盛大に首を傾げて見せた。
「とにかく、ここまで来るのにえらい苦労したのだ。あとはお前の取材次第なんだ、はっきり言って私だって不安なのだ。だが仕方あるまい。これが主筆なら何も言わずに送り出せるのに、かなり背中がむずむずする思いでお前を送り出さねばならんのだ、何でもいい成果を出してきてくれ」
まあ新吾の日頃の仕事ぶりといえば、記者というよりは町の何でも屋といった方がいい有様で、記事の取材を全面的に託するのは掛け値なしに不安であろう。それは社主だけでなく、この時出かけていた主筆も同じ気持ちなはずだ。明らかに身の丈に合ってない仕事を任せる、任されるという図式になっているのだ。
「しかし、話を聞く相手の方も、絶対に名前を明かして欲しくないというのは何故なのでしょうね」
新吾がなおも首を傾げながら社主に訊いた。
「さてなあ、そこの部分は私にも判らん。なんだかもう、ここに至っても狐につままれた気分であって……」
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