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チョコと出会った夜
その夜、ソイツを“チョコだ”と認識したのは、ある種、人知を越えた感覚的なものだったのかも知れない。
ソイツはチョコレートとは形も大きさも、何もかもがかけ離れていた。チョコレートとの共通項はと言えば、そのチョコレートブラウンの色だけだった。それなのにチョコだと認識したのは、あまりの空腹からか、バレンタインデーが近づいていたからなのか、はたまた俺の視力が悪いからか。いや、きっとそんな理由じゃなかったんだと思う。
その日、ようやく残業から解放された俺は、最寄り駅から自宅へと続く、住宅街の中の細い道を歩いていた。一月も後半に入り、キンと冷えた寒い夜だった。車一台通るのがやっとの幅のその道は、人通りもなく、響いているのは自分の足音だけだった。角を曲がった途端、目に入った大きな物体にドキリとし、次の瞬間には「チョコ?」と大声を出していた。俺の脳のどこかでチョコだと思ったらしい。
静かな夜の住宅街に俺の声がやけに響いて、“しまった”と思ったのと同時に、ソイツがクルッと反転して俺の方に近づいてきた。
「うぉっ!」
変な声をあげてしまったが、何の事はない、よく見るとただの黒っぽい大きな犬だった。
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