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 武で功を成せ。父はそれしか言わない。  確かに体には自信があり、足も速く武術に向いていないわけではなかった。しかし、少年は刀で人を斬るのが何より怖かった。  周囲が黒船の出現からこっち、あれこれざわついているからこそ、少年も危険には敏感になる。攘夷派による暗闘で既に少なくない人間が凶刃に倒れていた。  幕府そのものの屋台骨がぐらついているのは、末端に近い少年の立場からもはっきり見えた。  いずれ、幕府と袂を分けた何処かの雄藩が戦に踏み切るに違いない。これは、市中の町人でさえ囁く話であった。  戦でなど死にたくない。刀ではできない何か、そこに生きていく道はないのだろうか……。  そう考えた直後、少年は反射的に心の中で自問する。  自分は何処を目指している?そこまで武士が嫌いなのか?  晩秋の冷たい風が吹き大木を揺らす。その枝のざわめきが、少年には誰かの高笑いに聞こえた。  木々までもが臆病に揺れる自分を笑っているのか……。  偉丈夫のくせに、人に向かい刀を振るうのが怖くてたまらない自分を…… 「そんなことはない」  その声ははっきり少年の耳に届いた。 「だ、誰だ……」  少年が視線を上げたが、揺れる枝の先には誰もいない。
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