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 少年は竹刀を握ったまま大きな楠の下に蹲っていた。流れた汗で道着が湿り、座った地面に黒い染みを広げるほどだった。もう木枯らしが吹き始める時期なのに、汗はとめどなく流れ落ちているようで、染みは次第に大きく広がっていた。  こんな鍛錬に意味などあるのだろうか……  少年は心の中で呟いた。  武士だからと言って剣術に励むだけでいいのか。むしろ頭を鍛え、兵法なりの才能を認められた方がいいではないか。世の中は、黒船の来航から大きく動き、世間にはきな臭い空気が充満している。いずれ、どこかで戦端は拓かれ、幕臣は戦場に出なければならないだろう。  元服を強要され、月代を剃ったのはつい半月前だ。  もう自分は、一人の直参として使役に出なければならない。戦ともなれば、刀を持ち槍を携え何処かに向かわねばならない。  その時、たぶんこんな付け焼刃の剣術で何かが成せるとは思えない。  武士であっても、ただ刀を振って武勲を上げればいいというものではない。頭脳の勝負で負ければ、どんなに武弁であってもこの先の世に生きてはいけまい。  少年の理知的な頭はそれを見抜いていた。  無駄なことをしているだけか……  それなのに自分はここまで体をいじめ、蹲っている。  少年は竹刀を握る手の力が抜けていくのを感じた。もう極限まで体力を使い果たしている。井戸にでも行って水をあおるべきなのだろうが、彼はもう一歩も動けない様子だった。
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