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工業トラックが前を通りすぎてアドは目を覚ました。両手をあげてあくびした彼は、スモッグを肺に詰めこんでむせた。彼が目をこすっていると、そこへ一台の浮遊バイクが低い電子音をならしながらおりてきた。
「ようアド。遅れちまった」バイクに乗っていた男は言った。謝罪の言葉などなく、そっけない態度で、まるでそれが当然であるかのような素振りだ。
「あ? なんだここ。お前、誰だっけ」
アドは寝ぼけ眼で男を見つめた。脳はまだ半ば眠っていたようで、錯綜する記憶を整理するのに手まどっていた。目の前の飄々とした態度の男はもとより、いままでなにをしていたのかすら覚えていない。頭でもぶつけて失神していたのかと疑うくらいだ。
「はあ? なに言ってるんだ。久々に賞金首を狩りにいこうって誘ったのはお前じゃないか。寝ぼけてるのか?」
彼を眺めていたアドは手を叩いた。思いだした。アンヘル・クルス。彼と組んで賞金狩りの日々を送っている。見当たらなかった当たり前の日常が帰ってきた。
「ああ、お前か。随分と寝ていたようだ。いま何時だ?」
「午後二時だ。約束より一時間遅れた」事もなげにアンヘルは言った。
「俺を相手に遅刻して、殺されねえのはお前だけだ。いまのところはな」
アドは立ちあがってコートについた砂埃をはらった。
二人のそばにいつのまにか現れた男が声をかけた。でっぷりとした腹の粗暴な風体の男だ。ソーセージのような指から拳銃をチラつかせて男は下品に笑う。
「おい、お前らいいバイクに乗ってんなあ。おれに一個くれよ。足がなくて困ってたんだ。ついでに拾い物もあったらちょっと恵んでくれや」
アドとアンヘルは顔を見あわせて、ゲラゲラ笑いあった。早速、彼らの仕事が幕を開けた瞬間だった――。
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