ASP

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 繁華区、セクター第四区。 砂嵐の如く粉塵が舞うなか、倒れた電波塔の残骸にアド・フェロンは寄りかかっていた。脱出のための一手だ。周囲には巻き添えをくらった人々の死体が転がり、生き残った者たちの阿鼻叫喚が渦巻いている。黒髪を掻きあげて、電子煙草を吸いながら彼は天を仰ぐ。暗黒のなみだを顔面に受けて見据えるのは、幼いころから一切の変化を見せない暗雲だった。 『雨も心も、建造物も乗り物も、過去も未来もなにもかもが真っ黒だ。色とりどりの黒に染まった都市。くそったれAIに家畜化された世は退廃的で、絶望的で、背徳的だ。そんな世界が、終焉を迎えた人間にとって甘美に思えるのは、感傷に浸るにうってつけの場所だからだろう。だが、まだ希望がある……物語は始まったばかりだ。こんなところで終わらせるわけにはいかない』  ビルの奥から飛来するASPのトライクを見つけたアドは、しかめっ面でその場を後にした――。
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