空の色

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空の色

 ASP本部の執務室でガエルはディエス隊隊長とセロ隊隊長を交えて会議をしていた。セロ隊、ディエス隊は他の部隊とは一線を画す屈指の実力、暴力性が特徴の部隊であり、表舞台に現れることは稀である。 ディエス隊は大型浮遊戦車で編成された攻撃部隊で、主に大物マフィアとの大規模戦闘やAIに敵性をもつ者、革命を目論む集団の壊滅を目的として作られた部隊だ。 隊長のテオドロスは体格も態度も大きい男で、短髪の熱血漢だ。マフィアの掃討となると、ガエルの命令を待たずに出撃したり、持ち前の正義感と気性の荒さから、街中でゴロツキを殴り殺したり、マフィア相手に大砲を大量に使うなど、他の部隊の隊員からは、戦争馬鹿と皮肉をこめて呼ばれていた。三年前に起きた革命軍との戦いにおいて、最も戦果をあげて勝利に貢献した部隊でもある。 セロ隊の隊員はみな生体武装を施されたサイボーグ人間であり、強化された筋肉で重火器を扱う部隊だ。隊長のフェリチアーノはテオドロスとは正反対な雰囲気を持つ男で、細身で長身、長髪から覗かせる顔は死神のように鋭く冷たい。元々は暗殺を主として設立された部隊だったが、隊長のフェリチアーノは殺人を娯楽としか見ていないような男で、ターゲット一人の暗殺のために一〇〇人の都民を犠牲にするような作戦行動ばかりとっていた。AIにセロ隊を解雇するよう命じられた前総隊長は、ASP内最強の部隊として王座に君臨していた彼らを、解雇するには惜しい存在だと判断し、AIを説得して彼らを無期限の謹慎とした過去がある。ASP本部内では禁じられた切り札として今日まで待機する日々を送っていた最強最悪の部隊だ。 AIが殺人の無条件認可を剥奪し、許可制にしたのはフェリチアーノ率いるセロ隊が主な原因であり、最終的に就任当初から虐殺を繰りかえしていたガエルが認可制にとどめを刺した。 ASPの総隊長ガエルと三人で会議することは過去に前例がなく、隊員や職員はどこかの区が崩壊するのではないかと危機感を募らせていた。  ソファに座ってテオドロスは、 「おい総隊長。殺人の許可が下りたのは分った。俺様が呼ばれんだ。てっきり大事が起きたんだとワクワクするじゃねえかよ。それがなんだ。女を連れた男一匹を始末だあ? カビくせえ部屋でカビくせえ音楽の聴きすぎで脳ミソまでカビに毒されたってのか?」とローテブルに並べられたアド・フェロンとレア・カニャスの顔写真を前に憤っていた。  向かいのソファに座っていたガエルは鼻を鳴らしてコーヒーに口をつけた。 「この馬鹿の言うことはもっともだ。おれを解放するほどの事件かと思えばこのザマだ。ふざけているのか」テオドロスに並んで座っていたフェリチアーノは、静かに怒気を帯びた顔つきで言った。 馬鹿呼ばわりされたテオドロスはフェリチアーノを怒鳴りつけ、二人が一触即発の状態になるとガエルが、 「君ら、私はくだらない問答をするために呼んだんじゃないよ。私が欲しいのは結果だ。結果をだしてからものを言え。その後でいくらでも文句を垂れたらいい」と言って二人を諌めた。 「総隊長、この男の名は聞いたことあるが、なにが危険なのか、せめて教えてもらわないと納得できない」フェリチアーノは言った。 「彼の実力は非常に高いよ。が、重要なのはそこじゃない、彼が手にしているのはアテナの、そしてこの都市の最重要機密だ。絶対に知られてはならない機密を含んだMG7を彼は所持している」 「なんなんだその機密ってのは」テオドロスは言った。 「一つはAIの仕様書だ。AIに関する情報が含まれている。詳しくは私にも分らないがね。もう一つは……君らが知る必要のないものだ」 「ほう、分っているような言い方だな」フェリチアーノが言った。 「見当はついているよ。ん?」  入室してきたカークは一礼して、 「いましがた警察より容疑者発見の連絡がありました。場所は工場区の第一区画、六階層にある飲食街付近だそうです。また、別件で警察より連絡があり、飲食街にある酒場にて殺人事件が発生、情報屋が客に刺殺されたようです」と報告した。 「そうか。君らはまだ待機していてくれ。ただし出動準備は整えておいてくれたまえ。それとセロ隊から二人ほど借りていくよ」  ガエルがそう言うとフェリチアーノは不服そうに顎で了解の意を示した。
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