各国の長寿化に関する一研究者の告白

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 特に就職するつもりもなかった筆者は残りの保険金で会社を立ち上げた。  デザイナーズベイビー。今ではあまり聞かれなくなったが、当時は流行のただ中にあった。髪や目の色、背の高さなどを親の希望に沿う外見になるよう受精卵をゲノム編集で表現型をコントロールする。もちろん、この技術・産業には高い倫理性が求められた。筆者が生まれ育ったのは東洋のある富裕国であるが、当局の倫理審査委員会から承認を得られたものだけが、デザイナーズベイビー事業を許可される。無事承認が降りたものの、事業そのものは順調とは言えなかった。保険金で誤魔化しつつ経営を回していたが、その金も残り少なくなってきた頃、筆者はある決断をした。  当時のゲノム編集は法によって規制されていたが、実質的な細部が学会のガイドラインにルールが定められていた。例えば髪の色を茶にするのは問題ないが、まだら模様にするのは許されないといった具合だ。筆者はそのグレーゾーンに踏み込んだ。ガイドラインでは許されないが、法の解釈如何では許される範囲。顧客の要望にできる限り沿うよう遺伝子操作を行い、高額な報酬を要求した。経営はなんとか持ち直したが、ガイドラインに抵触している以上、倫理審査委員会から指摘が来るのは時間の問題であったし、場合によっては違法行為と認定される可能性もある。今後の身の振り方に頭を悩ませていた頃、ルカイヤと名乗る女性が筆者のところに訪れた。
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