各国の長寿化に関する一研究者の告白

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 T国の研究設備は想像以上のものだった。大学でも見なかったような最新の機材が並んでいる。 「このプロジェクトは多くの国から支援を受けているの。もちろん、あなたが過去にいた国からも」ルカイヤはそう説明した。  PH(perfect health)計画。このプロジェクトはそう呼ばれていた。筆者はそこで遺伝子を対象とした研究を行なっていたが、他にも薬学、生態学、免疫学など多数の分野での研究が進めれられていた。  研究に没頭すること数年、妙な噂を耳にするようになった。一部の研究領域で人体実験が行われているというものだ。確かにT国での規制は世界的に見ても厳しいとは言い難い。とは言え人体実験などというリスクの高い行いをするだろうかと筆者は疑問に感じた。もし発覚すれば、他国からの支援も打ち切られるだろう。だが筆者の考えとは相反し、人体実験の噂は絶えなかった。  ちょうどその頃、数年ぶりにルカイヤが筆者の前に姿を表した。彼女は見せたいものがあるといって研究所の奥へと筆者を連れ出した。何となく予感はしていた。厳重に閉ざされた扉を開くこと数回、目的の場所へとたどり着いたようだ。そこには瓶の形に似た巨大な容器が並んでいた。 「これは?」 「液体窒素の保存容器。中に何が入っているか、もう分かっているんじゃない?」 絶え間なく聞こえてくる人体実験の噂、厳重に管理された液体窒素の保存容器。筆者にはある一つの答えが思い浮かんでいた。 「これを使ってあなたに作って欲しいの。新しい人類を」  保存容器にはヒトの受精卵が大量に詰め込まれていた。
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