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「くそっ……なんで俺が、彼女の『運命の人』なんだ……!?」
金曜の夜、いつものカクテルバー。
苦悶の表情を浮かべ、岡崎はテーブルに置いた拳を固く握った。
「仕方ないだろ。リナの心臓のど真ん中にお前の矢が刺さっちゃったんだから。
よくあるじゃん、イラストでさ。キューピッドの矢がハートをぐさっと貫通してるやつ」
吉野は、岡崎へかからないように顔を背けながら、煙草の煙をふうっと横へ吐き出した。
岡崎は、恨めしそうに顔を上げて吉野をじろっと見る。
「俺は彼女に矢なんか放った覚えはないし、キューピッドに依頼した覚えもない!
そもそもお前のアホな行動がこういう事態を招いたんだからな……!」
「悪い。それはもうよくわかってる!
けど……こればっかりは……。お前とリナの間で起こった出来事だし」
「ーーー」
岡崎は再びがっくりと肩を落とす。
吉野は複雑な表情のまま、その傍らでまた新しい煙草に火をつける。
さっきから、この繰り返しだ。
2週間ほど前。
岡崎は、吉野経由でリナから熱い告白を受けていた。
二人がこのカクテルバーで飲んでいる最中に、吉野の元彼女のリナから、吉野のスマホにメッセージが入ったのだ。
『岡崎さんと、もう一度会う機会を作って欲しいの。ーーとうとう、運命の人に巡り会えた気がする。私、今度こそ諦めないわ』
ひと月ほど前に、吉野と別れるようリナを説得する目的で、岡崎はリナを食事に誘っていた。
それが功を奏し、吉野とリナは円満に別れるに至ったのだがーーその席で、岡崎はうっかりリナの心を射止めてしまったらしい。
「本人には全くその気がないのに、女子をうっかり射止めるとか……そういうの、いかにもお前っぽいよな。
逆に……お前さ、本気で誰か射止めようとしたことってあんのか?」
吉野のそんな問いかけに、岡崎は酔いの回った目でぐっと睨み返す。
「俺の心に波を起こす女子が現れないんだーー仕方ないじゃないか」
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