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「……ああーー!!もおぉーっっ!!!」
吉野は、ぐしゃぐしゃと自分の頭を掻きむしる。
そして……恐る恐るベッドに近寄り、岡崎の上に身を屈めると、震える指でネクタイの結び目を緩め始めた。
自分的には、今のこの状況下で最も避けたい作業だが……こうなれば、もう仕方がない。
ワイシャツのボタンも外し、喉元を開く。
その拍子に、白く温かい首筋が、微かに指に触れた。
柔らかい肌の感触に、思わず顔がカッと熱くなる。
「ううっ……!」
無意識に吉野は妙な唸りを上げる。
……マジで勘弁してくれ。殺す気か!?
意味不明な叫びを脳内で上げても、ただ虚しく響くばかりだ。
変な汗をかきつつ、動くたびに突っ張る両手首のボタンも外し、窮屈に締めたベルトのバックルを緩めにかかった。
そのカチャカチャという金属音に、なぜか半端でない罪悪感が纏わりつく。
酔っ払いの介抱としてごく当然の行動のはずが……してはいけないことをしている気がしてならない。
ーー仕方ないんだからな。
だって、こんな苦しそうで。こいつのために仕方なくやってんだぞ俺は。
そう思いつつも、心臓は胸を突き破る勢いで波打つ。
どんなかわいい女子をここへ連れて来ても、こんなことはなかったのに。
そう焦れば焦るほどーー触れた肌の感触が、指から離れない。
その首も、腰も……思ったよりずっと細く、しなやかで……
「んん……」
苦しげに身体を動かそうとする岡崎の眼鏡が、鼻からずれそうだ。
「ーー仕方ないんだからな!」
声に出して必死に弁解しつつ、そっと眼鏡を外す。
初めて見る、何もつけていない岡崎の寝顔を、吉野は思わずまじまじと見下ろす。
フレームに邪魔されてよく見えなかった、美しい形の繊細な眉が現れた。
眉の色と髪の色が、こんなにも柔らかそうな栗色だったことに、吉野は初めて気づいた。
ーー華奢に整った鼻筋と、長く伏せられた睫毛。
酔いのせいで、ほんのりと桃色に染まった目元。
苦しげに僅かに開いた、艶やかな唇。
緩めたネクタイとワイシャツの胸元から覗く、形の良い鎖骨ーー
鋭く硬質な普段の彼からは程遠いその無防備な姿は、どこか少年のような瑞々しさを漂わせる。
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