【番外編】 真

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***  オレが生まれるよりも前からお父さんはいなかった。だから当たり前だけど、オレはお父さんを知らない。写真で見たことはあるけど、全然知らない人だから、「この人があなたのお父さんよ」と言われてもよく分からなかった。 「あなたはお父さん似よ」って言われても、別に嬉しくなかった。  お父さんの方のおじいちゃんおばあちゃんは凄く優しいし、お小遣いもたくさんくれるけど、たまにオレを悲しそうに見てくるのがちょっと嫌だった。多分、お父さんとオレが「見る度に似てくる」からなんだろうけど。  お母さんも、一緒に暮らしてるおじいちゃんとおばあちゃんも皆たまにそんな顔でオレを見る。  「似てきた」「似てきたね」「どんどんお父さんに似ていくのね」……  オレはお父さんじゃないって、言いたくなっちゃうこともあるけど、何かそれは言っちゃダメなのかなって思う。  でも兄ちゃんだけは一度もそんな事をオレに言ったことがないんだ。オレとお父さんを比べたりしないんだ。  それに、兄ちゃんと一緒だと何をしてても楽しくて、嬉しくて、それにドキドキする。ドキドキするのは何でだかよく分からないけど、多分兄ちゃんがカッコ良くて、一緒に外を歩いてるのを友達に見られたりすると兄ちゃんを褒められたりするし……。だからドキドキするんだろうな。  兄ちゃんも一緒に暮らせたら良いのに。そうしたら、毎日楽しいのに。絶対!   ***  いつもよりも長く感じた一週間だった。  今日はいよいよ兄ちゃんが家に来る日だ!  学校に行きたくないし休みたかったけどやっぱり怒られたから、学校には来てる。でも授業なんか全っ然頭に入らない。    休み時間もいつもみたいに外に出てサッカーをする気にもなれなかった。ぼーっと頬杖をついてたら、仲良しのまさるに「マコト今日変だぞ!」って言われた。  そりゃそうだよ!  だって兄ちゃんが来るんだから! ……あああ、後は五時間目の社会が終わったら帰れる。時計の針を進めちゃいたい。タイムマシーンで、学校が終わった時間に行けたら良いのに! 「早く帰りたい!!」  思わず立ち上がって叫んだら、まさるが「うわっ」ってマヌケな顔して転んだ。 「お、お前やっぱり今日変だよ!!」 「えっへっへっへっへ…」
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