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「……へへへっ」
兄ちゃんとお揃いの、家の鍵をつけたキーケース。めちゃフツー、というか地味!
オレはもっと、ゲームのキャラクターとかのが好きだけど、兄ちゃんとお揃いなら大人っぽくて、ずっと長く付けられるのにしよう! って思って。
兄ちゃんはかっこいい大人の人だし、オレが大人になっても使えるから、ちょっといい黒色の革の奴(ってお母さんが言ってた)にした。
――真はこれで良いのか? もっと他に欲しいやつがあれば……
――ううん! これがいい! これにして、ずーっと、一生これ使う!
あの緑のやつ、早くボロくならないかな。変なにおいとかするようになったら、捨てるかな。ちょっとボロくなっても外さなそう……。
イライラする。
あれ、邪魔だな……。あれさえなかったら。
そしたら兄ちゃんが大事にするの、オレとお揃いのキーケースだけになるのにな。
イライラともやもや。でもお揃いのキーケースに触るとそれも何だか無くなってくから不思議。魔法みたいに。
「あれ、兄ちゃんの字だ」
ほとんど見てなかったテレビに釘付けになった。時代劇だ。青空が後ろに広がるその真ん中に、カッコ良く広げられた兄ちゃんの字――「誠」
「よく気付いたなぁ真。誠司と同じ字だな。それで『まこと』とも読むんだよ」
「まこと」
おじいちゃんが教えてくれた読み方を口に出した。おじいちゃんはまだ何かテレビの時代劇の説明をしてるみたいだけど、もうそんなの頭にも耳にも入らない。
真。誠。まこと……。
「真の名前はね、お父さんが考えたのよ」
テーブルにデザートのりんごを置いてから、お母さんが言った。
「お父さんが?」
「男の子でも、女の子でも『真』が良いって、もう真が生まれるより前にね――二人で、もし子供が出来たとしたらどんな名前がいいかなって話したのよ。……その時、由来までは聞かなかったけど、まあでも、真信さんの名前からとったんでしょうね」
お父さんの話をされるのはあんまり好きじゃなかった。
でも名前の事を聞いたら、声も知らないお父さんの事が少しだけ好きになれた気がした。
「なあに急にニコニコしたりして。嬉しそうに」
まこと。オレの名前。お父さんが考えてくれた、オレの名前。
嬉しいに決まってる。
だって、誠司兄ちゃんの中に、オレがいるんだもん。
おしまい。
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