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「おかえり」
あかりちゃんは白いカップを拭いながらやわらかく笑った。
「今日はありがとうね。こちらが、花」
「こんにちは、道重花です」
「琴里ちゃんからよう話は聞いてるわ。村木あかりです。私も去年まで嶺女通うとったの」
あかりちゃんはカウンターに腰掛け、その代わりに私がカウンターに立った。花はあかりちゃんの隣に座った。
「本、よく読まれるんですか」
あかりちゃんの文庫本を見つめて花がたずねる。
「そうやねえ。同じのんよう買うてまうしね」
「だったら電子書籍とかの方がいいですよ」
「それもあるけどなあ。私はしっかりと、この手で確かめられるものがええの」
あかりちゃんがいま誰のことを頭に浮かべているのか、なんとなく分かって私は少し寂しくなってしまった。
寂しい私の向こう側で、花とあかりちゃんはよくしゃべった。花は寮に入る前は神戸にいたとか、いちばん長くいたのは東京だとか、そんなことを言っていた。全部私の知らないことだった。
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