水仙の花

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・ 五条大橋を渡る。そのふもとにある扇塚を横目に見る。といってもこれはほんとうの塚ではなく、このあたりが扇発祥の地であることをしめす碑のようなものだ。今でもこのあたりには扇やさんが何軒かある。なっちゃんの家もそのうちのひとつだ。その立派な町家の角を曲がり、路地へ入る。 なっちゃんとあかりちゃんがキスしていたのもここだった。こんなところでしたらあかんよ、と言いながらあかりちゃんは恥ずかしそうに俯いていた。それはたしかに恋をしている女の子の顔で、私の見たことのない顔だった。そんなあかりちゃんを独り占めしてるなっちゃんはずるいと思った。ずるいと叫べばよかった。叫ばなくても、見たよって言って弱みを握って、どうとでもすればよかった。でもそんなことできなかった。二人はとてもしあわせそうで、その世界を私は壊したくなかった。誰にも言えないまま、この気持ちが何なのかよく分からないまま、私はその夜一人で泣いた。
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