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「これ、家庭科の」
図書室に入るなり水仙の花束を渡された花はまるい目をさらにまるくして、ありがとう、と言った。
「今あるもので全部あつらえたんだ。すごいね琴里。おばあちゃんみたい」
「確かにおばあちゃんの真似やけど。褒めてるの、それ」
「うん。私、琴里のそういうとこ好きなんだ」
そういうとこって、どういうとこなんだろう。そういえばまだあの返事をきいていない。黙る私をよそに花は続ける。
「水仙ってナルキッソスっていってね」
「ナルシストの語源なんやろ」
「さすが」
水面に映る自分に恋をしたナルキッソス。見つめ続けても水に映る自分は想いにこたえることはなくて、結局その苦しみで死んでしまう。なんだか私みたいだなと、うつむくように咲く水仙を見て思った。
「何考えてるか分かるよ。自分みたいだって思ってたんでしょう」
黙ってばかりの私に花が投げかける。声色で、いつもと感じが違うのがなんとなく分かった。
「じゃあ少しは私の方みてよ」
ぐいと三つ編みが引っ張られる。あかりちゃんの真似をして、小さな頃から結い続けている三つ編み。それを手繰り寄せるようにして花はゆっくりと唇を近づけてくる。
「ねえ琴里、私あかりさんに会ったの初めてじゃなかったの」
白い、端正な顔が眼前にせまる。
「みたんだ、春ごろに。あかりさんともうひとり、綺麗な女の人がここに遊びにきてるの。それを見てる琴里を、私はみたの。琴里の視線、すごく熱かった。多分、羨ましいんだろうなって思った。だから私、琴里なら相手してくれるかもって思って近づいたんだ」
ああそうか。そういうことだったのか。
「奈都さんっていうんだってね、その人。私に似てるって。デートした日の帰り道に、あかりさんにきいたんだ。二人、付き合ってたって」
知りたかったけれど、知っていたけれど、知りたくないことだった。もう、やめてほしい。
「琴里、本当は、私に興味あるでしょう。キスだって、してみたいでしょう。素直になってよ。私を受け入れたら、自分のことも受け入れられるんだよ」
「やめて」
口にしたら、唇がふれあった。拒否したのに心は完全に認めていた。
「私は奈都さんじゃないから。琴里だってあかりさんじゃないよ」
花の声を背に、私は図書室を出ていった。
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