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その日あかりちゃんは遅くにお店にやってきて、閉店時間までコーヒーをすすっていた。時間がくると、手伝って帰ろうかな、と言って表の看板を裏返してから洗い物をはじめた。あかりちゃんはなんでもお見通しなのだ。すごいなと思う。私は今日あった花とのことを話した。そしてきいた。
「あかりちゃんは、なっちゃんと付き合ったはったん」
「そうやね」
分かっていたことだけれど本人から聞かされると、少し胸にきた。そんな私をよそにあかりちゃんはふきんで丁寧にカップの水滴を拭っては、ハイ、と手渡す。
「琴里ちゃんはなっちゃんのこと嫌い?」
「嫌い…」
静まりかえった店内に、カップの擦れるカタ、カタという音だけが響く。あかりちゃんは私の言葉をゆっくり待ってくれていた。
「ううん、好き。私あかりちゃんもなっちゃんも好きやから、羨ましかった」
そっか、と俯いてあかりちゃんは微笑んだ。
「私、あかりちゃんになりたかった。そのことなっちゃんに言うたら、琴里はあかりにはなれないって言われたんや。当たり前なんやけど」
そう、当たり前だ。口にできるのに、どうして頭では理解できないんだろう。
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