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私は、どうして気づかなかったんだろう。目の前にいた人に。自分だけ見て自分が分かるわけがないということに。指先でその一文をなぞってから、便せんに描かれた小さな鳥をそっと撫でた。
私はまっすぐな目で世界を見つめたいと思った。この世界には、何も隠されてない。そのままの目で見つめればいいだけだ。目に映るこの世界が私なのだ。
お店番が終わったら返事を書こう。麻の葉模様の文庫箱に仕舞われた、水仙の花が咲く便せん。それに花の好きなところをたくさん書こうと思った。気づくとあかりちゃんがお店の前に立っていた。
「明日、なっちゃん帰ってきはるって。駅まで一緒にお迎えいく?」
「うん。花もええかな」
「もちろん」
あかりちゃんのケータイが鳴った。そのやさしい表情で、誰からかかってきたのかすぐに分かった。それでも私はもう寂しくなかった。
「迎えにいくわ。三人で」
あかりちゃんはやわらかく笑いながら、その向こう側に話しかける。
「うん、そう、会わせたい子たちがいるの」
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