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中学に入ってしばらくした頃、なっちゃんは家庭の事情とやらで京都の街を出ていった。彼女がこの街に戻ってきたのは、彼女が高校生、私が中学生になったとき。なっちゃんはあかりちゃんと同じ学校に通うために猛勉強して嶺女の高等部に入学し、私は私であかりちゃんみたいになるべく猛勉強して嶺女の中等部に入学したところだった。
「あかりから聞いたで、中学から嶺女入るって。えらかったんやな、琴里は」
なっちゃんは私のあたまに手をおいてヨシヨシした。その目はやわらかくなったというより、熱いものが冷めてしまったような、そんな感じがして私は少し怖くなったことを覚えている。
「そんなことあらへん。私は、あかりちゃんみたいになりたくて…」
そこまで言ったところでにわかに彼女の顔が曇り、その手はあたまから頬へ滑って私の顔を包んだ。そして言った。
「琴里はあかりにはなれへんよ」
その手の、その目の冷たさを私はまだ覚えている。
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