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「琴里、これ吉田さんのん」
おばあちゃんに呼ばれて、コーヒーを吉田さんのもとへ運ぶ。
「ほれ」
私がカップをおくのと、吉田さんが小包みを差し出したのはほとんど同時だった。小包みをつかむ吉田さんの手はしわしわで、私も早くこんな風になりたいなと思った。そのころには私だって、自分がどこにいるか分からないなんてそんな悩みくだらない、って笑っていると思う。おばあちゃんになった自分を想像する。なにもかも未来の自分に任せてしまいたい。そんな気分になった。
「あけてみ」
包みを受け取って開けると、それは麻の葉模様の文庫箱だった。深い紺色がきれいだ。
「これ、鳩居堂の」
「知ったはるんか」
「この柄のん、欲しかってん」
「来月から孫が小学校入るさかい習字道具買いにいったんやわ。ほしたらかわいいのんあるわ思うてな。和柄好きやろう、琴里ちゃんは」
「うん。ありがとう、吉田さん」
私は私のことが分からないのに、なんでみんなは私のことが分かるんだろう。
「良かったなあ、琴里ちゃん」
あかりちゃんが笑っている。私はその文庫箱を見つめてから、そっと抱きしめた。
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