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図書室に午後のやさしいひかりが落ちている。窓際のこの席が、私と花のいつもの席だった。
「文学少女だ」
花が顔を寄せてくる。
「なに」
文庫本から顔をあげないままこたえる私にたえかねて、花は机に突っ伏した。
「琴里は私にだけ冷たい」
「どういうこと」
「みどりにね、琴里のこと話したら、優しい子だよねって言ってたよ。琴里は優しいんでしょう。優しいんだったらさ、」
胸元の紐リボンがぎゅっとひっぱられ、花の方を向かざるを得なくなる。花は唇を近づけてくる。それが重なる前に私はこたえた。
「優しくないから」
優しいとか、いい人とか、よく言われるけれど、それは私ではなかった。あかりちゃんのなり損ないだ。花はあきらめたという風にリボンから手をはなして、文庫本に視線を落とした。
「渋いね、琴里は」
昨晩つくったブックカバーを見つめながら花は言う。鳥と花が描かれている天平調のその柄はたしかに渋いかもしれない。でも私はこういうのが好きなのだ。落ち着いた深緑色も気に入っている。
「鳥と花だね」
「うん」
「琴里と私だよ」
「ああたしかに」
「え、気づいてなかったの」
花はまた机に突っ伏した。本当にショックを受けているようで、しばらく経っても顔をあげない。
「花、知ってる」
なだめるように言うと、花は頬を机にくっつけたまま私を見上げた。
「アメリカでは表紙のことをカバーいうんやって。ほんでこの本についてるカバーはジャケットとかダストカバーいうて、捨てられること前提でつけてあんの」
「じゃあ琴里はカバーの上にジャケットをかけて、その上にまたカバーを被せてるんだ」
「そう」
そうだ。幾重にも膜をはることで、自分を飾ったり、守ったりしている。だってほんとうの部分の価値が、私はわからない。空っぽだって知られるのが怖い。
「欲しい」
ポツリと花がつぶやいた。
「え、これ」
「違う、本じゃない。カバーが欲しいの」
「あげるで」
「いや、お揃いがいいの」
自分でその包装紙を手に入れることに花はやたらこだわり、結局、私たちは週末に鳩居堂へいくことになった。
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