冬の夜の刹那

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
分かれ道にさしかかり、私は雪音に端々とした別れの言葉を告げた。 グッと自転車のペダルに力を入れる。ギアを一番重くしているため、出だしはふらふらしながらゆっくりと進んでいく。 ああ、そうなんか。原本君彼女おったんや。全然分からんかった。 そりゃあ、あんなにおもしろくて、優しくて、顔もまぁまぁ良くて、運動もできる人に彼女がおらんわけないよな。 だんだんとスピードが上がり始めた自転車は、冬の夜のひんやりとした空気をビュンビュンと切っていく。 私みたいな人生の負け組は恋なんか叶うわけないよな。 ほんまに調子に乗っとった自分がバカみたい。 現実を知れ・・・バカ野郎! ちょっと優しくされとったからって、からって・・・って・・・ いつのまにか自転車をこぐ速さはトップスピードまで達していた。 ごちゃごちゃに絡み合う感情を必死に受け止めながら、がむしゃらにがむしゃらにこいでいた。 立ちこぎになって、ペダルを回せばまわすほど自転車は前に進む。 前を歩いていた人は、次々に私の自転車の勢いに飲み込まれ、視界から消えていった。 事故るかも、いや、今の私に事故っていうものは分からない。 どこか遠くのものに感じる。 人間の日常的な世界は、大会で走る3kmよりもきっと遠い。 「そうか、彼女・・・おったんか」     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!