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「……そんな、困った顔しないで下さい」
「……」
「って、俺が困らせてしまっているんですね。自分がこんなに嫉妬深い人間だなんて、知らなかった。
――好きです、貴方が。どうしてだろう、何でこんなにも、譲さんに惹かれてしまうのか……分からないけれど、貴方といられる時間が幸せです」
壊れ物を優しく包み込むように、僕を抱きしめた辻浦君。
その体温は、以前ならただ気持ちが悪いだけだった。
それなのに――
「ちょ、チョコ」
「え」
「ない、から。……明日、何か買ってくる。バレンタインじゃ、なくなっちゃうけど」
僕が恐る恐るそう言うと、目の前の辻浦君は大きく目を見開いて、そして今度は僕を力強く抱きしめた。
「い、いたっ、痛いよ!」
「いりません、チョコレート。チョコはいりませんから」
だから……と、後半口篭り言葉を窄ませた辻浦君が、何だかいつもとは違って頼りなく小さく見えて、気が付いたら僕はその背中に手を添えていた。
「っ、だ、だから、……あの、昼休みが終わるまで、こうして、抱きしめていていいですか……?」
いつも勝手に抱きしめようとするくせに。子供っぽく妬いて、無理矢理キスを迫るくせに。
それなのに――こんな風に、顔を赤くして僕に許しを請う彼が。
「……う、……ん」
ほんの少しだけ、そうほんの少しだけ、可愛いかもしれないと思ったのは、絶対に内緒だ。
「でも木本さんのチョコは受け取っちゃ駄目ですよ」
「……もう、わかったから」
end
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