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「……これ何?」
「勿論、バレンタインのお返しですよ。決まっているじゃないですか」
「いや、あげてないよね」
「譲さんを抱きしめさせてもらいま」
「いや、あげてないよね」
首を振る。何度も振る。
そう、結局僕は辻浦君に何もあげなかった。バレンタインデー……あの後、落ち着いて考え直したら、そういえば僕は辻浦君に何かあげなければいけない義務なんてないと思い至った。
当たり前のことなのに、その場の空気に流されかけたのが情けない。
「物なんかじゃ代えられないくらい、幸せな時間を貰いましたよ」
……出た。簡単に恥ずかしい台詞を言ってしまう辻浦君。何か言うと思ったけどやっぱり出た。
聞いているこっちが悶絶するくらい恥ずかしい。
「それにこれ、多分譲さんが思っているようなものじゃありませんよ」
「え?」
差し出された物は薄い――そう、丁度ネクタイをギフトにする時程度の箱に見えた。
包装紙もブランドに疎い僕ですら解る名前が印字されているけど……これはフェイク?(しかし微妙なフェイクだけど)
ちらっと辻浦君の顔を窺う。
にっこり笑って開封を促される。
……気になってきた。
どうしよう。開けてみようか。でも開けたら辻浦君の思うつぼのようで少し悔しい。
もう一度辻浦君の顔を見る。
「開けてびっくりですよ」
辻浦君のトドメの一言に、僕は一言お礼を言ってから包装紙を開いていった。
まるで子供のように、内心何が出るのかとワクワクしていた。
「……」
「ね?」
「――辻浦君、」
「譲さんが譲さんのその手で開封したんですからね。返品不可です。ちゃんと使って下さいね」
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