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「あれ、お前そのネクタイ、良いじゃん。あのブランドのやつだよな? もしかして彼女からのプレゼントかー?」
「あれ、高瀬君、それ私も彼氏にプレゼントしようとして悩んでたのと同じだぁ。雑誌にも載ってたらしいね! 良い感じ、似合ってる」
「前、雑誌で見たから彼に良いかなって思ったんだけど、もうお店に無かったのー」
不本意だったけど、ネクタイなんて会社に行くとき以外では殆ど着ける事はない。
会社に着けていけば確実に辻浦君を喜ばせるだろうけど、意地を張って着けないのも大人気ないし……確かに自分で開封したのだから着けなければと思った。
ブルーベースの斜めストライプを基調としたシンプルなネクタイは、着用に抵抗もないデザインのものだ。
まさかつい最近、有名ファッション誌に掲載されていたなんて知らなかった。
――やられた。
「似合ってますよ、譲さん」
背中合わせのデスクにいる辻浦君が僕に耳打ちする。
イラッとするのに。
ちらっと視界の端に映った顔は、悪戯めいた笑顔じゃなくて、人懐っこい犬みたいな無邪気な笑顔。
だから、……ずるい。この笑顔は。
「……会社で名前で呼ぶのは止めてって」
「はい、すみません」
***
その頃、一部女性社員の間では――
「最近、辻浦君と高瀬さん妙に仲良しじゃない?!」
「てか距離近いよね」
「あのデスク位置はやばい」
「プライベートだと名前で呼び合ってるらしいよ、あの二人」
「嘘ー! あの二人なら許す!」
「高瀬さんも目立たないけど顔だち整ってるし、イケメンとキレイ系、……いいよねー!」
女子トイレでは化粧直しに励む女性達の、当たらずとも遠からずな話題が日々溢れている。
end
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