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「この家? 可愛いね」
「ありがとっ。三年前に建てたばっかりなんだ。どうぞ入って」
招き入れられて玄関へと足を踏み入れた。
途端。
「あら! いらっしゃい! まあどうぞどうぞ上がって下さいな」
「ちょ、ちょっとお母さん! テンション高過ぎ!」
家の中から出迎えてくれた美波の母親の異様なテンションに一瞬肩が跳ねた。
「は……初めまして。辻浦孝文と言います。突然お邪魔してすみません」
「こちらこそ来てくれてありがとうね。美波がいつもお世話になってます。ささ、どうぞ上がって! もー。写真で見るよりずっとカッコいいのね!」
「もうお母さんってば!」
ああ。間違いなくこの二人は親子だ。
***
「どうぞゆっくり座ってテレビでも見ててね。美波! アンタは手伝い!」
「ええー。せっかく孝文が来てくれてるのに……」
「今日ビーフシチューだけどアンタは無しで良いってことね?」
「はい今すぐ参ります! 美波、いっきまーす!」
俺の隣で寛ごうと腰を下ろし掛けていた美波が、某有名ロボットのパイロットよろしく光の速さでキッチンに向かっていった。
テレビを見ていて良いと言われたものの、何となく落ち着かない。
「俺も何か手伝うことはありますか?」
「あらっ。良いのよ良いのよ座ってて!」
「そうそう孝文。座ってて。……あ、お兄もうすぐ帰ってくるかな?」
「そうねえ。譲は残業がなかったらもうすぐかしらね」
譲――?
そういえば、美波に兄がいるという話はちらっと聞いたことがある……気がした。
何せ、家族の情報なんてどうでも良かったから。俺自身は兄弟もいないし、自分と年齢が近い血縁者がすぐ傍で生活しているという環境はよく解らない。
「あ。帰ってきたかも」
人の足音が近づき、遠ざかっていった。
二階に自室があるのだろうか。そのまま暫く降りてくる気配はなく、やがて食卓には美味しそうな料理がずらりと並べられた。
「お兄呼ぼうか?」
「良いわよ、先に食べてましょ。っと……譲ー! 先に食べてるからねー!」
リビングの扉から半身を出し、大声で二階にいる美波の兄へと呼び掛ける美波の母親。その声に応えるように微かに男の声が聞こえた。
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