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さっき一瞬目が合った時、呼吸が止まるかと思った。
どうして? 解らない。だってまだ話もしていないじゃないか。まだ、ほんの数十秒の間、譲さんを見ていただけだ。
でも、あの人に捕らえられていたい。そう思った。
――え?
なに?
……何だ、これ……? 俺は、いったい今、何を?
「全く、鈍くさいんだから」
「そこがお兄の癒し系なところなんじゃない? ねえ孝文、お兄さ、どう?」
「……は? え!? な、何が?!」
「えっ。何がって、ほら前に言ったじゃん。よく似てるねって言われるんだって。で、普通に考えたらお兄ちゃんに似てるって微妙じゃん? まあうちのお兄は男のくせにさ、綺麗な顔だねとか言われてるから、うん。そんなイヤじゃないけど……みたいな」
記憶の糸を手繰る。
言われたような、言われていないような記憶はひどく曖昧だ。
「うん……似てる、かな。お兄さんの方が何となく落ち着いた感じだけど」
「ええ、それって……私の方が微妙って事?」
「はは、そんなことないよ」
似てる。
いや、似ていない。
だって全然違うじゃないか。
ふと、目の端で閉じられた扉が再び開かれたのを捉えた。
そこから現れた人の姿に、血潮が激しくたぎり目眩すら感じるほど心が揺り動かされてしまう。
それはもうどうしようもなくて、抗えなくて。
自分でどうにかしようと思って制御できるようなものじゃないことだけは解った。理性が――うまく、働かないような、感覚。
人が人に魅了されるというのは、こういうことなのだろうか?
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