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少年のボックスからは、その女の横顔がしっかりと見えた。少し体を傾ければ、姿全体が見えた。赤いミニスカートにグリーンのロングベストを身に着けている。おかっぱ風に前髪を揃えて、横髪で耳を隠している。クレオパトラを思わせる、髪型だ。際立った美人でもなく、愛くるしさに溢れているわけでもない。
何の変哲もない、普通の女だった。
が、少年の目が捉えるその女の手には、すらりと伸びた細い指が、少年と同じくコーラを手にしている。Coca_Colaという文字の入ったコップは、まさに少年が手にしているコップだった。大事そうに抱えるそのコップの文字が、少年の目にグングン迫ってくる。その服装にはとても似つかわぬコーラ、それが少年には妙に生々しく感じられた。
異国の地で出会った同郷人に見えた。
そしてコップを持つ仕種は、いつでもどこでも見かける仕種だ。なのにこの時この場における仕種が、少年の胸をざわつかせる。原色の服と同様に、厚化粧に見える。きついアイシャドウに隠された瞳の輝きが、少年には眩しい。鼻筋を高く見せるための陰、ベージュ色に見える唇、何もかもが少年の胸を高鳴らせた。
グリーンのロングベストの下で、フリルの付いた真っ白いブラウスがキラリキラリと光っている。そしてその下は、ミニスカート。鮮やか過ぎる真っ赤なミニスカート。少年の心を燃え上がらせている。週刊誌のヌード写真も映画のラブシーンでも、これ程の早鐘は経験していない。少年の目は女の手に縛られて、少年の意には添わなくなってしまった。
少年の心は、少年から離れてしまった。
女の手が膝の上に置かれる。
少年の視線が、女の膝小僧に移る。
少年の目が、桜色に輝き眩しく光る膝小僧にくぎ付けになってしまう。一瞬時、少年の意識が遠のく。そして我に返ると、視線の先に膝小僧が。遠のく、我に返る、膝小僧が。それが、幾度繰り返されたことか。
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