(三)グリーンロングベスト

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 女の視線が、少年を捉える。口にしていたコーラに思わずむせぶ少年。視線を落として、女の光線から逃れる。そしてまた女を…盗み見る…。女の熱い視線が、少年を捕らえている。慌てて視線を落とす。再び視線を向ける。と、女の熱い矢が少年を襲う。耳に鳴り響く鼓動に急かされるように、少年が語りかける。  否、語りかけようとした。  しかし、非常にも女の視線はもうなかった。少年の語りかけに応えることなく、階下のバンドに視線が向けられていた。手にしているコーラを、一気に流し込む。ジンと喉にくる刺激の快感ですら、少年をいら立たせる。  長い長い、少年の煩悶が続いた。 “どうして……なぜ……どうする……どうやって……どうして……なぜ……”  悲しいことに、何をどう煩悶しているのか、少年には分かっていない。言葉だけが堂々巡りしている。少年の視線の先にいる女は、食い入るようにバンドを見つめている。 “ほら、ほら、待ってるんだぞ。ほら、ほら、待ってるんだぞ”  煩悶が、いつしか逡巡に変わっていた。靴のかかとが、コトコトと音を立てている。よしっ! と、握り締めた拳も、すぐに力が抜ける。気を取り直しての力も、かかとが床に着くと同時に緩んでしまう。  バンドが交代した。  身を乗り出さんばかりだった女も、ストローを口に運んでいる。バンドのボーカルが、マイクスタンドを蹴っては、がなりたてている。素っ頓狂な声を張り上げている。♪シャウト! と、何度も叫んでいる。ホールで踊りに興じる若者も、♪シャウト! と叫んでいる。ボーカルに合わせるように、拳を振り上げている。
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