0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
少しの間、己の夢想とのあまりの落差に立ち竦んでしまった。
戸惑いの中でも、容赦なく現実が襲いくる。
「お客さん。ここでチケットをお求めください。一杯の飲料代も含まれています。追加の場合は、黒服にその旨お伝えください」
「えぇっと、それじゃ…コーラを一つ……」
「ご注文はお席に着かれてからお願いします」
常連客を装うとした少年。
顔を真っ赤にして、チケットを手にして、キョロキョロと見回す。
少年の心が告げる。“カウンターだ、カウンターの隅っこに行け!”しかし、少年の足は動かない。
黒服が少年の前に現れた。
「お客さん、こちらにどうぞ。お連れ様はいらっしゃいますか?」
「い、いえ。今夜は一人です。この間は……」
友人に連れられて来たのだと言いかけて、言葉が詰まってしまった。初見の客だと見抜かれていることを、さすがに認めざるをえない少年だ。第一、二度目三度目がどうだというのか。
つい苦笑いをしてしまう。
「申し訳ありませんが、お一人様ですとカウンター席をお願いしていますが」
「良いです、そこで。端が空いていれば、端っこで良いです」
最初のコメントを投稿しよう!