(二)陶酔する

4/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 少しの間、己の夢想とのあまりの落差に立ち竦んでしまった。  戸惑いの中でも、容赦なく現実が襲いくる。 「お客さん。ここでチケットをお求めください。一杯の飲料代も含まれています。追加の場合は、黒服にその旨お伝えください」 「えぇっと、それじゃ…コーラを一つ……」 「ご注文はお席に着かれてからお願いします」  常連客を装うとした少年。  顔を真っ赤にして、チケットを手にして、キョロキョロと見回す。 少年の心が告げる。“カウンターだ、カウンターの隅っこに行け!”しかし、少年の足は動かない。  黒服が少年の前に現れた。 「お客さん、こちらにどうぞ。お連れ様はいらっしゃいますか?」 「い、いえ。今夜は一人です。この間は……」  友人に連れられて来たのだと言いかけて、言葉が詰まってしまった。初見の客だと見抜かれていることを、さすがに認めざるをえない少年だ。第一、二度目三度目がどうだというのか。 つい苦笑いをしてしまう。 「申し訳ありませんが、お一人様ですとカウンター席をお願いしていますが」 「良いです、そこで。端が空いていれば、端っこで良いです」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加