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「美沙も危険な渦中に巻き込まれているのよね。しかも、彼の追っている事件と背中合わせ‥‥。」
「最初から分かっていた事だ。当然、俺達の敵にもなりうる事は。しかし‥‥。」
しかし、考彦が死にも繋がり兼ねない渦中に身をゆだねつつある気配も、亜紀はこの時、微かに感じ取っていた。
「これから一体どうするの?」
目の前の不安を断ち切るかのように、瑠依が声をかける。
「美沙を引き留めている本人に直接会って、執着を捨てさせるまでだ。」
「それが誰なのか、あなたにはもう分かっているの?」
「ああ、真っ先に会うべき人物が一人‥‥美沙の父親、北条勇司だ。」
瑠依の瞳を見返す亜紀の眼差しに、一層の鋭さが増していた。
慌ただしく出入りする刑事達の姿を横目に、祥己はただ一人、待合いの席に座り込んでいる。
6年前に起きた土地買収問題にからんだ事件、もしくは事故の状況を詳しく調べる為、当時管轄だった警察署を訪れていたのだ。
担当の刑事が書類を持ちに行っている間にも、祥己は西崎の尾行を続けている刑事からの先程の言葉を思い起こしていた。
『今日は、朝から会員制のフィットネスクラブへ入ったかと思ったら、服を着替えて裏口から出ると、そのまま競馬場に来てるんですよ。もちろん、さっきから馬券を買いまくってます。それにしても、どうして岡本さんには、西崎がここへ来る事が分かったんでしょうかねぇ。俺の方がビックリしちゃいましたよ。』
電話口から返ってくるその返答に、考彦が何かしらの意図を持って競馬場へ行こうとしているのは明白だ。
しかし一体何をしようとしているのか、祥己には今だ検討がつかない。
ただ一つ言える事があるとしたら、考彦にとっては当初から西崎の行動には確信めいたものがあったという事だけ。
「いやいや、大変お待たせしました。6年も前の事なんですが、調書や資料もいまだデータベースの方へは詳細に整理できてなくて、探し出すのに少々手間取ってしまいましたよ。」
50代前半くらいだろうか、かなり年を重ねた年配男性が姿を見せた。
「こちらこそ、すみません。連絡も無しで突然お願いしてしまって‥‥。」
テーブルの上に置かれた数冊の調書を手に、担当刑事はようやく腰をソファへと落ち着ける。
「確か、巨大タンカーが横転して大火災になった事件でしたねぇ。」
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