第5話

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「ええ、そうです。実際の所、事故として処理されてはいますが、当時の見解としてはどうだったんでしょうか?」 もっとも知りたかった真実へと、祥己は息もつかさず切り込んでいる。 「事故を起こしたタンカーの運転手は、数日後には亡くなりましてね。結局本人の口から直接の調書は取れなかったんですよ。」 当時の事を思い出したかのように口にする刑事の言葉を耳に、祥己の視線は書き綴られた調書の流れを追っていた。 6年前のあの日、タンカーが横転し、車の外へと放り出された運転手はそのまま病院に運ばれたものの重体。 3日後に、ようやく状態はもち直したものの翌日になって容体は急変、結局、意識を回復するまでには至らず、数時間後には死亡した。 容体が急変した事について、病院側も警察も不審な点があるという事で病理解剖に踏み切ったのだが、特に原因の決め手になるものもなく、最終的に事故死という結論に至ったのである。 事故が起こったのが深夜過ぎの真夜中だった為、これといった目撃者もなく、タンカーが横転する直前タイヤがパンクする音や、爆発音に近いものを聞いたという証言もあり、捜査段階でも様々な意見が飛び交っていた。 実際には、積載していたガソリンによる激しい火災であった為、実証に結びつくまでの証拠さえも残らない程、焼きつくしてしまったのも事実だった。 「運転手本人は、勤続10年以上のベテラン社員で、運転に関してはかなりの信頼があった人物でした。もちろん何一つ汚点は見つからず、我々としては彼の運転操作ミスによる事故としか結論づけられなかったんですよ。例え万が一、それが何者かに仕組まれた事故であったとしてもね‥‥。」 祥己が一番、問い正したかった答えを、目の前の刑事は口惜しそうに呟いていた。 あれ程、派手に土地買収の抗争が繰り返されていただけに、誰が見てもこの事故は仕組まれたものに違いないと思うのが普通だ。 なぜなら、当初の予定通りに開発工事が開始されたからである。 まして、裏に大企業から行政官僚への賄賂受け渡し、真侠会の組織の介入、そしてその背後に国際的テロリストである郷大一生が控えていると分かっていた以上、何らかの切り口から摘発を狙っていたのは一カ所の捜査本部だけとは限らない。 恐らく、様々な警察内部、もしくは各部署からの内偵や極秘捜査が繰り広げられていたに違いない。
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