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「大きな声では言えませんが、持久戦の先にあったものは行政圧力による捜査のもみ消し、そのものでしたよ。」
上下組織の中にいる祥己にとっても、身につまされる話だ。
半分ため息まじりに、もう一冊の厚い資料を手にする。
「当時、開発反対運動の中心的人物は3人いましてね。その内2人は、あの時の火災で亡くなっています。まあ、最後の砦だった彼らが亡くなっては反対運動もあったものではない。」
住民名簿を書き記した項目を目にする祥己の手が、隈無くページをめくってゆく。
「それで‥‥、その3人目の方というのは、まだ生存してるんですか?出来れば会って、その時の事を詳しく聞きたいんですけど‥‥。」
祥己の指し示す名前の後ろに、次々と死亡という文字が記載されている。
そんな彼女の手が、一瞬だが動きを止めた。
『瀬名生喜(せな まさき)29才。職業、精神科医?』
「あの‥‥この瀬名という方は?」
「ああ、3人目というのはこの人ですよ。土地買収問題も、事故直前までは、すでに和解という形になっていましたから‥‥。彼の場合は、火災事故の起こった2日も前から、研修の為アメリカの方へ出かけてましてね。運が良いのか悪いのか、本人が留守の間に自分の両親、妻子がこの火災に巻き込まれて焼死。知らせを聞いて3日後には帰国したんですが‥‥。全ての葬儀を終えると再び海外へ渡ったらしく、今現在の行方は分かっていません。」
親友を失ったという、森医師の言葉が脳裏に浮かぶ。
「一瞬にして家族を失い、あんなに守り通して来た住む場所さえも消え去ってしまっては無理もありませんな。たった一人、残されてしまった訳ですから‥‥。」
一通り目を通した限りでは、医師という職業の人物は、この瀬名生喜ただ一人。
同時に、佐山病院から消息を絶ったという精神科医、香山達也の存在が祥己には妙に引っかかっていた。
思わずカバンから取り出したiPadに、香山の身元データを映し出す。
6年前に29才だったという事は、当時の年齢から換算して、瀬名生喜が生きていたとしたら、現在は香山と同じ35才。
瀬名は海外へ渡り、香山はアメリカから日本へやって来た。
「あの‥‥海外へ渡ったって、どこだか分かりますか?」
「そうですねぇ。タンカー会社が負担する事になった被害訴訟の裁判で、判決が出た直後に一度本人と連絡が取れたのが最後でしたから。その時は確か‥‥。」
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