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手元にあった一冊の資料を取ると、彼は記憶をたどるかのようにページをめくる。
「ああ、これだ。ロサンジェルスでも有名な病院らしいですなぁ。ジェスタニール病院内と住所にはあります。」
「ジェスタニール病院?」
パソコン画面のデータを送る祥己の指先が止まる。
瀬名生喜と香山達也が‥‥‥こんな所で繋がってる?
香山達也の履歴の中に、全くもって同じ病院名が記されていたからである。
そう、ジェスタニール病院と‥‥。
「どうやら事情聴取で警察に話した内容と、君の中にある真実とはかなり異なっているようだ。」
さっきまでの長い沈黙と緊迫感を断ち切るかのように、霜沢の一言が会話を促している。
復讐の為に曽根山の病院へ看護婦として勤め始めたのだという緋冴の衝撃的な告白を聞き、陽子は何一つ返す言葉も見つからずにソファへと座り込んだままだった。
椅子の背にもたれかかりながら、緋冴は遠くを見つめるような眼差しで真実を話し始めた。
「最初に彼に近づいたのは私の方からでした。そう出会いは一年前、私が小児病棟へ勤務し始めた頃でした。」
田中僚は二年ほど前から時々、佐山病院への営業帰りに、その小児病棟へと顔を覗かせていたようだ。
「後で知ったんですが、彼は元々孤児だったそうで、7歳の頃、優しい育ての親に引き取られ、幸せな時を過ごす事が出来たのだと‥‥。それもあってか、独りで病気と闘っている子供達に対しては、いつも笑顔で接する人懐っこい人でした。そんな彼に惹かれ始めていた頃、私は、ある事実を知ってしまったんです。」
そう、田中僚が、院長の曽根山と製薬会社の上司である西崎と深い繋がりがあるという事を‥‥。
緋冴としては、西崎の情報を集め、6年前の土地買収に関する裏取引や不正に関する証拠を手に入れたかったのだ。
「その為に、あえて西崎の直属の部下だった田中さんに近づいたんです。」
やがて、お互い飲み仲間のような関係になっていったある日の事。
いつもの彼の行きつけの店で、待ち合わせをしたのだ。
ところが、その日は重要な取引に急なトラブルが発生したとかで、田中僚は、3時間以上と、かなり遅れて店へとやって来た。
恐らく、慌てて店へと直行したのだろう‥‥。
田中僚は、重要な取引データを所持したままに、待たせ続けた緋冴に何度も謝った。
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