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杖を手に向きを変える‥‥そう、顔を上げたのは、あの石吹瞬だった。
「私は、ここの事務長で石吹瞬。病院内で起こった騒動の鎮静化を見届ける為に、ここから病院内を見渡していただけですよ。」
孝彦の誤解を解くかのように、石吹は素直に返答を返す。
「ここは、今から捜査対象の現場になる場所だ。悪いが出て行ってくれないか?」
スーツ姿に白い手袋を身に着けた孝彦の姿に、どうやら彼が警察関係者だと理解したようだ。
「警察の方でしたか。それは、失礼しました。」
孝彦のそんな言葉に、目の前の男は黙ってうなづいていた。
杖を手に、ゆっくりと踏み出す片足。
右足を引きずりながら傍らを通り過ぎてゆく、その姿に、孝彦はいやが上にも引き付けられていた。
『この男も、右足を‥‥‥?』
殺人事件の現場で目撃された謎の人物と目される男が、ここにも一人。
孝彦の投げかける、いぶかしげな視線の先で、沈黙のままに廊下の先へと姿を消した石吹瞬。
「岡本刑事。‥‥こんな所にいたんですか?到着した捜査員なら、すでに下の階で捜索を始めていますが‥‥。」
「何言ってる‥‥。狙撃現場は、この場所だ。」
「えっ?でも、狙われたのが曽根山院長なら、高差の位置的に下の階では‥‥。」
「本当に、曽根山院長が狙われていたならば‥‥という仮説に過ぎない場合だろ?最初から、目撃者がいて証言がある訳でもなし。まっ、両方調べて見れば、狙撃場所がどこなのか明白に判る事だがな‥‥。」
孝彦の一言で、血相を変えた現場の刑事が捜査員の元へと駆け出してゆく。
窓辺へと近づいたそんな孝彦の指先が、銃口と接していたと思われる僅かなコンクリートの傷痕へと触れた。
見下ろした先‥‥。
窓側に背を向けていたのは森有都、そして相対するように窓から距離を置いて正面に向かい合っていた曽根山。
犯人の視界を考えるならば、曽根山を狙う場合、一つ下の階でなければ森有都の姿が邪魔になって焦点の確立は低くなる。
だが、もし最初から森有都を狙っていたのだとしたら、ギリギリ森有都の姿が見える高い場所が優位だ。
なぜなら、狙撃犯の姿も人目からギリギリ隠されるからだ。
「果たして、ホントの狙いはどっちだったのか?」
使用された拳銃と撃ち込まれた銃弾の深さを、現場に流れていた曽根山の出血量と周囲に飛び散った血痕の状態から、すでに割り出していた孝彦。
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