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洞窟のような闇の中から、再び陽の光が満ち溢れた庭先へと歩み出る。
「ねぇ‥‥。北条美沙は、一体何を私達に伝えようとしているの?父親を救って欲しいと、あの時、私に言った。でも、さっきのはまるで美沙自身を救う必要があるように思えるんだけど‥‥。」
庭園のベンチへと座り込んだ瑠依が問いかける。
「彼女の魂は、複数の霊魂に捕われたまま浄化出来ずにいる。それを知って欲しくて、君をあの暗闇へと導いたんだ。」
「美沙は海で溺れ死んだって、祥己さんから聞かされたんだけど、それと関係があるって事?」
「いや‥‥。」
転じた会話を切り出すかのように、亜紀は懐から取り出したタバコへと火を付ける。
「美沙が海で溺れた事に、あの無数の霊魂達は何の関係もない。あるとしたら、亡くなった後‥‥。」
意図した答えが見つからず、瑠依には言葉が続かない。
そんな彼女を見やる亜紀の口元が微かに笑った。
「前にも言っただろ?おふくろは、ややこしい依頼に限って、この俺に仕事を回して来るって‥‥。今回も、ただの浄霊だけでは解決出来ない複雑な背景がある。」
亜紀の言う通り、彼程の霊能力があれば美沙にまとわりついている複数の霊魂共々、一気に浄霊出来るはず。
しかし、今日までそれをしようとしなかったのには、もう一つの大きな要因があった。
「ある思いに捕われた感情が、共鳴したものを引き寄せてしまっている。つまり、亡くなった美沙に対して、ある人物の抱いている感情が、あれ程までに複数の霊魂を呼び寄せてしまっているという事だ。」
「つまり、生きてる人間が美沙を苦しめていると?」
「そう、亡くなった美沙へと執着する人間の感情が全ての原因‥‥。しかも、絡みついている感情は一人じゃない。」
「複数もの人間が、美沙に対して何らかの執着を持っているというの?」
無言でうなずく亜紀の視線に、瑠依は否応なく戸惑いの表情を隠せないでいる。
生きた感情が、肉体を失った魂を引き止め、苦しめているなんて事があるのだろうか?
瑠依にとっては、あまりにも理解しがたい現実だった。
「全ては、たった一つの因縁から始まっている。あえて言わせてもらえば、美沙だからこそ複数の魂が引き寄せられて来る。そう、美沙はもう一人の君なんだ。」
「私‥‥?」
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