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「霊的な力を生まれつき持っていたという事。そして彼女が持つ魂の輝きは、死んでも尚、霊魂を引きつける強さを持っている。」
生きてる人間の執着心に加え、美沙本人も又、手放せないでいる思いがお互いに同調し合い最悪の状況をもたらしていた。
「あなたになら、彼らの執着心を美沙から引き離す事ぐらい、簡単に出来るんじゃないの?」
「確かに不可能な事じゃない。しかし、今の状態で解き放ってしまうと、今度は生きてる人間の方に膨大なダメージを与える。思いが強すぎるばかりに、相手は死を免れないばかりか、全てが闇の底へと引きずり込まれてしまう最悪の事態にも成り得るだろう。しかも、それは幽体となって呼び寄せられた複数の魂もろとも暗黒の世界をさ迷う事になる。」
「本当に‥‥そんな事が?」
「今回ばかりは、全く特殊なケースと言える。普通は、在り得ない事だしな‥‥。」
その言葉に、瑠依はふと思った。
「確かに、事の始まりは一人の少女の亡霊からに過ぎなかったけれど‥‥‥。本当は、その背後には何か大きな危険なものが存在してる‥‥。だから、あなたがこうして表舞台に出て来たんじゃ‥‥‥。」
何かを探り当てるかのような推測めいた言葉を投げかけながらも、いつしか亜紀を見やる視線が口調を重くした。
一切、返答する素振りを見せようとはしないが、瑠依を見返す亜紀の眼差しの中には、明らかに否定に値する言葉自体が皆無である事を充分に見せつけていたからだ。
「彼女を‥‥‥美沙一人を救い出せばいいって問題じゃ、もうなくなっているのね。」
「その通り‥‥。どういう訳か、予想以上に生きてる人間の執着心の力が強まって来ているのは確かだ。何とか手段を講じないと、このままでは手遅れになりそうだ。」
立ち上がった亜紀の背を見つめる瑠依の瞳が、何かを思い出したかのように考彦の姿を探していた。
間一髪とはいえ、あの巨大なレンガの壁を一気に破壊するとは‥‥。
考彦という刑事の存在は大いに興味をそそられる。
「ところで、あの頑丈そうなコンクリートレンガの壁を、どうやって一瞬にして破壊したの?」
タバコの煙をくゆらせながら、亜紀の視線が振り向き様に瑠依を見やる。
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