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命の危険を犯してまでも緋冴と共に逃亡し、6年前の当事者を窮地に追い込む程の重要なデータを田中僚本人から引き受けたという彼の話が、明らかな真実味を持つのだ。
「どうやら刑事さんは、この私が瀬名生喜ではないかと疑っているようだね。」
香山は、祥己の意図する言葉を既に読み取っていた。
「顔を変え、香山達也という男に成り代わる理由が、この私にあるとでも?」
「瀬名生喜は日本を離れてから行方不明がわかっていない。その可能性が全く無いとは言い切れないのも事実。どうです?‥‥違いますか?」
「彼とは、もう6年近くも会ってはいない。なぜなら私の親友であった瀬名生喜は、もうこの世には生きていないのだから‥‥。」
「えっ?まさか‥‥死んでいるの?」
祥己の驚きに香山へと引き付けられた瑠依の視線が、彼の背後に漂い始めた異空間を捉えていた。
やがてぼんやりと浮かび上がった人影が、はっきりとした形で彼女の視界へと焼き付いてゆく。
一人の女性と、その傍らには幼い子供が二人。
そして顔の見えない男性が一人、姿を現わしたのだ。
まるで今の言葉を暗示するかのように‥‥。
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