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手にした部品を、じっと見やる孝彦の顔に真実味が増してゆく。
「それにしても、よほど改良技術の自信があって新型として取り扱ってるんだろうな。こんな部品の形を目にしたのは、俺も始めてだ。ただし‥‥、あそこは銃器製造というより、恐らく銃器の手入れ場所だったんだろう。ある目印に沿ってたどって行ったら、かなりの規模の射撃場が地下内部に広がっていた。」
「つまり、射撃練習、もしくは銃器の試し撃ちを行っていた場所だったということか?」
「ああ‥‥。オートマチック拳銃であった場合は、射撃頻度にもよるが、最短で3か月に一度は分解クリーニングと注油が必要となる。そうしなければ、どんな性能の良い銃器であっても作動不良が起こる可能性が高まるからな。ただし、マシンガンのような射撃場としては、あの空間では狭すぎる。恐らくこの場所以外にも、広大な射撃場を所持しているんだろう‥‥。」
亜紀の言った通り、考彦の秀でた能力の凄さを瑠依は目の前で否が上にも見せつけられていた。
そんな考彦を見やる亜紀の表情が、さっきとは打って変わって厳しい顔付きへと変わる。
「考彦、今回の事件、かなりヤバいんじゃないのか?」
亜紀の言葉を耳にしながら、考彦は今だ手榴弾の傷跡が残る海岸道路を見下ろしている。
「最近、武器密売で警視庁内が騒がしいのも、どうやらこの一件と関係がありそうだ。それに、さっきの事で、二つの組織が緊迫した混戦状態にある事も確認出来た。この地下において密売銃器を所持していた組織と、それに敵対する組織。実際、テロリストが関わっているだけに、お互いの正体を確定するには、まだ少し時間がかかりそうだ。しかし、あんな高尚な代物まで国内で密売を始めたとは‥‥正直、ちょっと考えられないんだがなぁ。」
どうやら、孝彦には何かしら引っかかるものがあるようだ。
「ここまで軍事色に染まって来ると、いくら射撃に秀でたお前でも相手が悪すぎるんじゃないのか?」
亜紀の言葉に、再び顔を上げた孝彦。
「全ては動き出してんだ。事実、晃達はその中に巻き込まれてる。もう引き返せない所まで来てるんだよ。」
地面を噛み締めるかのように強い信念の下、再び一歩を踏み出す孝彦。
それ以上、声をかける事も出来ずに、去りゆく孝彦の姿を視界に入れたまま、亜紀は立ち尽くしていた。
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