二月十四日

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「本当は捨てようかと思ってたんです。でもあなた、とっても優しいから。それに……」 サツキさんは振り返って続けた。 「あの人、ちょうどあなたくらいの若い女の子が大好きだったんですよ」  電車が停まった。サツキさんは微笑んだ後、くるりと背を向けて足早に去っていく。追いかけることもかなわず、私はボストンバッグを抱えたまま呆然とサツキさんの残した言葉の意味を考えていた。  優しいから?あの人?嫌な予感がする。発車を告げるベルが鳴り響く。目の前の席にはもう彼女はいない。これは、このバッグの中身は一体。  ゆっくりと走り出した電車に揺られながら私の心臓も徐々に早くなる。ドクン、ドクン、ドクンと大きく脈打ち手が震える。ボストンバッグの金具に手をかけジッパーを開けた。  中には白地に銀色の糸で刺繍の施された和柄の布が見えた。何処かで見た気がするが思い出せない。着物の生地のような布。触れてみるとそれが箱だということがわかった。  バッグから取り出そうと引っ張ったところで私は気付いてしまった。箱の手前につけられた飾り紐。四角い箱。サツキさんの言葉。「捨てようかと思った」「あの人」「ちょうどあなたくらいの若い女の子が大好きだった」これは、この箱は。 「キャァァァッ!!!」     
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