二月十四日

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 私がスマホで観光スポットについて調べている間に一人の女性が乗り込んで来た。ちらりと視線を女性に移す。チェック柄のロングスカートにグレーのコートを羽織っている。袖から見えた手首は折れてしまいそうなほど細い。  女性は隣のボックス席で持っていた小ぶりのボストンバッグとキャリーケースを網棚に乗せようとしていた。細身の体に相応しく非力なのか、随分苦労しているようだった。  助けるべきか。余計なお世話かもしれない。しばし見守っていたが、見兼ねて声を掛けた。 「あのぅ、手伝いましょうか」  私がそう言うと女性は振り返った。  透き通るように白い肌。涼し気な目元と小さな鼻は何処か薄幸な雰囲気を漂わせている。私より幾分年上に見える女性は困ったように微笑んだ。 「ああ、すみません、大丈夫です。手元に持っておきますから」  無理に網棚に置くことをやめ、荷物を足元に置くことにしたらしい。座席に余裕はある。どうせこの先も混み合うことはないだろう。  そうですか、と告げ座席に戻ろうとしたが女性は続けた。 「旅行ですか?」 「ええ、はい」  まさか向こうから話しかけられるとは。大人しそうな容姿とは違って、彼女は「お一人ですか?」とか「どこまで?」と自然と話しかけてくる。  一人旅に何処か心細さを感じていた私は、同じく一人で電車に乗ってきた女性に親しみを覚えた。気づけば彼女はボックス席の向かい側に座っており、互いの身の上話を始めていた。     
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