二月十四日

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 サツキさんはその後、M県のおすすめの食べ物や穴場スポットをいくつか教えてくれた。いつか私の地元の方にも来てねと微笑んで。  あの独白が嘘のようだ。私が見た白昼夢だったのかもしれない。人当たりがよくて優しい人の心の奥底に修羅が今も燃え盛っているとは思えなかったのだ。旅行への高揚感がおかしな方に向いて、穿った見方をしただけだ。  やがて鈍行はサツキさんの目的地に近付いた。互いに別れを惜しみ、お元気でと言い合った。彼女はハッと何かを思いついたように私にボストンバッグを差し出した。 「これ、良かったら持って行ってください」 「え?」  小ぶりのボストンバッグ。半ば強引に膝の上に置かれる。何か箱が入っているようだ。見た目に反してそれほど重くはない。  いきなり手渡されても困る。私は「そんな、いきなり……」と再びサツキさんに渡そうとしたが彼女は押し付けるように私の膝の上にボストンバッグを置いた。 「いいんです、私には必要ないものなの。私の話に付き合って貰っちゃったし、バレンタインのプレゼントだと思って、どうぞ」 「でも……」  中身もわからないのにこんな荷物を渡されてどうしたらいいのか。駅名を告げるアナウンスが流れる。  サツキさんはキャリーケースを手にして立ち上がった。     
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