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………………こわっ。
俺の部屋で待つ、とか……はあ!?
少しして、自分の立場を理解して、背中に寒気が襲った。
俺の部屋に……!? どうやって入る!? あの夜空あゆが、どうやって!?
さっきから驚かされてばかりだ。
それより、彼女のような人がなんで俺なんかにパンツを――
「お待たせ、チョコでもあったのか?」
「うわあぁぁぁあああ! って、田所かッ! ビックリさせやがって!!」
声を上げ、振り向きながら、パンツと箱を後ろに隠した。
話しかけてきたのは待ち合わせしていた田所亮太。彼が持っているバッグの中にはぎっしりと箱が入っていた。これが本物のバレンタインチョコ。
「ごめん、女子たちの大群に足止めされてて」
「やっぱりか! 分ってたけど、実際に本人から聞くとイラっと来るな」
田所は入学当初から女子たちにモテモテだ。
こいつの隣にいると、耳に入ってくる女子の話は大抵田所のこと。
俺のことに関しては、一切触れていない。もしかすると、気づいてすらいないのかも。
これがモテる陽キャと一切モテない陰キャの差。思ってて、だんだん悲しくなってきた……。
「そんなこと言わないでよ。俺だって大変なんだからさ」
「そうですかそうですか。じゃ、俺もう帰るから」
颯爽と立ち去ろうとしている俺に、田所は小首をかしげた。
「一緒に帰らないの?」
「ちょっと大事ことがあるのと今日、お前と一緒に帰れる感じじゃねえからなッ!」
話が通じていない様子の田所だが、俺の言い分は現実へ。
「田所君、今日一緒に帰らない?」
「なっ?」
「……えっ? えっ?」
田所の隣に来た女子と俺の顔を交互に見る。
混乱している田所だが、猛者たちは待ってくれない。
「亮太君? 私と帰らない?」
「はあ!? 一緒に帰るの、あたしだし!」
「まだ亮太君返事してないでしょ!?」
「じゃあ、私と帰ろっ?」
一人、二人……とだんだん増えていく女子たちに、飽きれた。
「じゃあな。頑張れ~」
「ちょ……と待って! 翔? 翔さんッ!?」
いつだろう……夏休み前、冬休み前にも同じ光景を見たことがある。
花火大会があるから――、と。
クリスマスの時に――――、と。
あいつもあいつで大変だな。まあ、俺には共感も同情もできないんだ。
さて、あんな奴は放っておいて、さっさと帰るか……パンツ。
気づけば、俺の頭の中はパンツのことでいっぱいになっていた。
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