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「それからもう一つ」と北氷君が声を潜め呟くように言った。
「智也君」
「智也君がどうしたんですか?」
「彼の様子を探ること」
「も、仰せつかったということ?」
その指示は板前さんからだろう。
「そういうこと」と言いながら北氷君は「あぁぁぁ!」と頭を掻きむしる。
「絶対に言うなって言われたのにぃぃ……メチャ怒られる」
「どうして内緒にするんですか?」
「もう!」と口を尖らせた北氷君が、「これ以上は本人から直接聞いて!」とそっぽを向く。
「とにかく、カオちゃんが智也君の所に行くんだったら、僕も付いて行かなくっちゃいけないってこと。理解してくれたよね?」
理解って……と隣を歩く北氷君を見上げながら、あっ、一番星見つけたと呑気に思う。
向かった先は智也君が身を寄せている阿倍野寺。由緒正しい年季の入った大きなお寺だ。
「藤宮稲荷神社といい、ここといい、いつ見てもだけど、古式ゆかしい日本の建物は優美で尊大だねぇ」
ライトアップされた山門を見上げながら北氷君が感嘆の声を漏らした。
「ずーっと海外で暮らしていたから、日本古来のものを見ると、しみじみと日本の素晴らしさが胸に染み入るよ」
大袈裟なようだが、国外に出ていた人は概ねこういう感想を漏らす。
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