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「どういうことですか?」
『家出』の二文字が脳裏に浮かんで消える。
「昨日から姿が見えないんだ」
阿部野寺の皆はてっきり道場に稽古に行ったものだと思っていたらしい。だが、昨夜、智也君は帰ってこなかった。
「あの年頃だろ? 連絡をし忘れて花咲家の人たちと楽しい時に身を投じているんだろうと、阿倍野寺の面々は思っていたようだ」
そう言えば……嘉月君が時々お泊まり会をしていると言っていた。だが、それは弟たちがいるときだけだったと記憶する。
「阿部野寺の方々は弟たちがいないって知らなかったんですね?」
「そういうこと」
しかし、蓋を開けてみれば道場にも行っていなかった。焦った阿部野寺の面々は急いで妙快さんに連絡を入れたようだ。
「花咲家の方には、『来ていない』と言われた時点で誤魔化したようだ」
心配をかけたくなかった、という理由らしい。
なのに私たちが現われた。だから、妙快さんは動揺したらしい。
「水くさいじゃないですか。教えてくれないなんて」
「いや……それは……」と顔を顰めた妙快さんが北氷君を見る。
「僕を叱ってもどうしようもありませんからね」
先手必勝とばかりに北氷君が言い訳を始める。
「カオちゃんは誤魔化されませんでしたよ」
「お前、それも喋っちゃったのか?」
妙快さんの雷が落ちる。
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