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「ええ、智也君が恋をしたらしいんです」
私の返事に妙快さんは、益々意味が分からないというように首を傾げた。
そんな妙快さんにざっと説明すると、彼は相当驚いたようだ。「すぐに調査してもらう」と慌てた様子でその場を去った。
妙快さんの説明で、私たちも阿倍野寺からは情報を得られないと知り、花咲の家に戻った。
それにしても……次から次に、いったい何が起こっているのだろう?
「明日、稽古が終わったら……」
「まさか、メモリーに戻るとか言わないよね?」
皆まで言わせず北氷君が素っ頓狂な声を出す。
「絶対にダメ! 僕が叱られる」
「土曜日まで待っていられません。響さんと話さなきゃ」
「だから、今はいろいろ危ないんだって!」
「それだったら尚更です。響さんを一人にしておけない」
それに……と記憶喪失の彼女のことを思う。
あの子が私の代わりにお店を手伝っている……そう思うと胸が騒めくのだ。
「カオちゃん!」
北氷君がギュッと私の肩を掴む。ハッとして彼の顔を見上げると、北氷君がいつになく真剣な顔で私を見下ろしていた。
「マスターは大丈夫! 厳しいことを言うようだけど、君が予定外の行動を取る方が迷惑なんだ。だから、土曜日まで我慢して」
いつになく辛辣な言葉だった。でも……ガツンと頭を殴られたようで、目が覚めた。
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